【内容調整中】ISM(解釈的構造モデリング)をツールで実践する:SSIMから可到達行列、階層分解、グラフ化まで
ISM法とは
多くの人は日常的に「良い・悪い」「好き・嫌い」といった判断を行っています。しかし、これらの評価がどのような基準や観点から下されているかを明確に説明するのは難しい場合が多いでしょう。
なぜなら、現実の複雑な問題は単純な基準だけでは決まらず、多くの要素が相互に関係しあう構造の中で成立しているからです。
ISM法(Interpretive Structural Modeling) は、このような複雑な要素間関係を階層化された有向グラフとして整理・可視化するための手法です。
システムを「要素の集合と、その上に定義される関係」として捉え、その構造を解釈的にモデル化することを目的とします。
代表的なシステム構造化手法(SM手法)としては、
- ISM法(Interpretive Structural Modeling)
- DEMATEL法(Decision Making Trial and Evaluation Laboratory)
が知られています。本稿ではISM法に焦点を当て、実際の手順をオンラインツール /tools/ism/ を使って解説します。
ISM法の前提
ISM法を適用するためには以下の前提があります。
-
システムは ( n ) 個の要素集合
[ S = { s_1, s_2, \dots, s_n } ]
から構成されること。 -
要素間には二項関係 ( R ) が定義されること。
つまり「( s_i ) が ( s_j ) に影響を与える」関係を
[ s_i R s_j ]
と表し、有向グラフでは ( s_i \to s_j ) の矢印で表現します。 -
この関係は推移律を満たすこと。
[ (s_i R s_j) \land (s_j R s_k) \implies (s_i R s_k) ]
ISM法の手順
ISM法の流れは大きく次の4段階です。
公開ツールでは Step1〜Step4 に対応しています。
- 要素の抽出(Step1)
- 関係の入力(SSIM作成)(Step2)
- 到達可能性行列と階層分解(Step3)
- 最終有向グラフの描画(Step4)
以下、それぞれの段階を解説します。
Step1. 要素の抽出
まず、分析対象となる要素を列挙します。
ツールでは「要素(要因)を1行に1件ずつ入力」するだけで、自動的にID(1..n)が割り振られます。
例:
明確な目標
経営の支援
熟練したチーム
適切なツール
プロセス標準化
リソース確保
顧客との共創
Step2. SSIM(構造的自己相互作用マトリクス)
次に、要素同士の影響関係を SSIM(Structural Self-Interaction Matrix) に入力します。
記号の意味は次の通りです。
記号 | 意味 |
---|---|
V | 要素 i が j に影響(i → j) |
A | 要素 j が i に影響(j → i) |
X | 相互影響(i ↔ j) |
O | 関係なし |
ツールではペアごとに選択する方式と、上三角行列を直接編集する方式が用意されています。
Step3. 行列変換と推移閉包
(1) 初期到達可能性行列(IRM)
SSIMを数値化して 初期到達可能性行列(IRM, Initial Reachability Matrix) を作成します。
変換規則は以下の通りです。
- 対角要素:必ず1(反射律)
- SSIMがVなら (M_{ij}=1)
- SSIMがAなら (M_{ji}=1)
- SSIMがXなら (M_{ij}=M_{ji}=1)
- SSIMがOなら 0
(2) ブール代数演算
ISM法では通常の数値演算ではなく ブール代数演算 を用います。
演算 | 定義 |
---|---|
1 + 1 = 1 | OR演算 |
1 * 1 = 1 | AND演算 |
1 + 0 = 1, 0 + 0 = 0 | |
1 * 0 = 0, 0 * 0 = 0 |
(3) 推移閉包の計算
IRMをもとに、累乗計算を繰り返すことで 推移閉包行列 T を得ます。
[ T = (IRM)^* = I \lor IRM \lor IRM^2 \lor IRM^3 \dots ]
有限個の要素からなるため、ある (r) に対して安定し、それ以上の累乗で変化しなくなります。これが最終的な 可到達行列(推移閉包) です。
ツールでは「閉包 JSON/CSV」として出力されます。
Step3’. 可達集合と先行集合によるレベル分解
得られた可到達行列から、要素ごとに以下を定義します。
- 可達集合 R(i):要素 i から到達可能な要素の集合
- 先行集合 A(i):要素 i に到達可能な要素の集合
これを比較して、
[
R(i) \cap A(i) = R(i)
]
を満たす要素群を一番上位のレベルに配置します。
割り当てた要素を集合から除去し、残りの要素について再び同じ判定を行うことで、階層的なレベル構造が完成します。
ツールでは「レベル分解」の結果が自動的にリスト表示されます。
Step4. 最終有向グラフの描画
最後に階層分解の結果をもとに、Interpretive Structural Model(ISM階層グラフ) を描画します。
- 各要素は矩形ノードとして表示されます。
- 推移簡約オプションをONにすると、中間要素を介して説明できる冗長な矢印が省略され、より見やすい図になります。
- 出力はSVG形式で保存可能です。
まとめ
ISM法は、複雑なシステムを要素間関係に基づいて階層的に整理する強力な方法です。
手作業やExcel計算では煩雑になりがちですが、公開ツール /tools/ism/ を利用すれば、入力から計算・グラフ描画までをブラウザ上で一貫して実行できます。
参考文献
- 椹木義一, 河村和 編『参加型システムズ・アプローチ』日刊工業新聞社, 1981年