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ISM法

1.ISM法はSM(Structural Modeling)手法のひとつ

  多くの人々は日々、好き・嫌い、良い・悪いと言ったさまざま判断を下している。これらはほとんどの場合無意識のうちに行われ、評価そのものを決定する事を 特に難しく感じる事は、基本的には少ない。しかしそれらの評価がどのような基準・観点からなされるかという疑問に明解な回答を得る事は困難な場合が多い。 これはそのような評価がいくつかの限られた条件に対する単純な閾値の充足可否によってなされる類の物ではなく、多くの要素が相互に関係して決定される物で あるためだと考える事が出来る。

 こういった、いくつもの要素が存在し相互に関係性を持っているような、現実の複雑な問題を、”要素の集合とその上に定義されている関係の集合”たるシステムとしてとらえ、その構造をモデル化する事がシステムの構造化、即ちSM手法の目的と言える。

 システム構造のモデル化においては一般に、次のようなプロセスを踏むとされる。
 (1)構成要素の抽出
 (2)要素間の関係付け
 (3)構造モデルの作成
 (4)構造モデルの解釈と検討

 SM手法としてはISM(Interpretive Structural Modeling)法、DEMATEL(DEcision MAking Trial and Evaluation Laboratory)法などが知られている。今回取り上げるISM法は上記プロセスの「(3)構造モデルの作成」に適用できる一手法である。

2.ISM法適用の前提

 ISM法はシステムの構造を最終的に、Interpretive Structural Modelと呼ばれる階層化された有向グラフとして表現する手法である。ISM法を適用するためには次のような前提が必要である。
 ・ISM法の対象と成るシステムはn個の要素の集合S={s1, s2, ... , sn}から成るものであること。
 ・システムの要素間にはRと言う関係が定義される物であること。
  (要素Siが要素Sjに関係すると言う事を Si R Sj と表現し、有向グラフにおいては要素Siから要素Sjに矢印を結ぶ事で表現するする事にする。)
 ・ISM法で取り扱う要素と関係は、もし Si R Sj かつ Sj R Sk ならば Si R Sk と言う関係が成り立つものであること。
  (この関係を”関係Rは推移的(transitive)である”又は”関係Rは推移律を満たす”と言う。)

3.ISM法の手順

 さてシステム構造のモデル化プロセスについて、
 (1)構成要素の抽出
 (2)要素間の関係付け
 (3)構造モデルの作成
 (4)構造モデルの解釈と検討
 と紹介したが今回のISM法は(3)に関する手法であるので、(1)及び(2)に付いては完了している物とす る。これら構成要素の抽出や関連付けといった手順は取り扱う対象と成る問題や事象・システムにおける関係者へのアンケート調査やブレーンストーミング、メ ンバー間の合意などに基づいて行うなど、さまざまな取り組み方が考えられるが、本稿では取り扱わない。

 では早速ISM法を適用して構造モデルの作成を行う手順を追って見る事にする。次のような有向グラフで示される、要素と要素間の関係が抽出されているとする。

 この有向グラフを等価な2値行列Aとして表現すると次のようになる。

 即ち行iと列jの交点が1であれば、Si R Sjである事をあらわし、0であればそのような関係はないことをあらわす。この行列Aは二項関係Rの、あるいは有向グラフの隣接行列(Adjacency Matrix)と呼ばれる。
 次にこの隣接行列から可到達行列(Reach Ability Matrix)を計算する。可到達行列を計算するために、まず隣接行列Aに単位行列Iを加える。単位行列Iは次のとおりである。

 したがってA+Iは次のように成る。

 この行列A+Iをブール代数演算のもと、次の状態が得られるまでr回数分の乗算を繰り返す。

(A+I)r-1≠(A+I)r=(A+I)r+1=T

※ブール代数演算(1+1=1, 1+0=1, 0+1=1, 0+0=0, 1*1=1, 1*0=0, 0*1=0, 0*0=0)

 こうして得られた次の行列Tが可到達行列と成る。

 こうして得られた可到達行列は要素Siから直接及び間接的に到達可能な全ての要素に対してその交点に、到達可能な関係を示す1が示される事に成る。この可到達行列と等価な有向グラフは次のとおりである。

 一見して非常に煩瑣である。次のこの可到達行列の要素を、その到達可能性によって階層化するために、可達集合と先行集合を定義する。



【-----以下執筆中-----】






参考文献
 椹木義一 河村和 編:「参加型システムズ・アプローチ」日刊工業新聞社(1981)